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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)172号 判決 1992年7月17日

東京都中央区日本橋室町三丁目四番四号

上告人

安宅木材株式会社

右代表者代表取締役

久山爵

右訴訟代理人弁護士

高橋隆雄

木村眞一

名取康彦

松井克允

東京都中央区日本橋堀留町二丁目六番九号

被告上告人

日本橋税務署長 大澤義平

右指定代理人

加藤正一

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行コ)第一四四号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成三年五月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高橋隆雄、同木村眞一、同名取康彦、同松井克允の上告理由について所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 藤島昭 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

(平成三年(行ツ)第一七二号 上告人 安宅木材株式会社)

上告代理人高橋隆雄、同木村眞一、同松井克允の上告理由

(目次)

一 原判決及び第一審判決が破棄されるべき理由の総括

二 原判決概要

(一)及至(三)

三 原判決が違法である理由について

(一) 第一審判決の要点

1 法令の解釈

(1)、(2)

2 認定判断

(1) ALH社の業務関連事項

イ及至ハ

(2) ALH社の経営関連事項

イ及至ホ

(3) 結論

(二) 第一審判決の違法

1 法令の解釈適用の誤りと判断の不当

(1) 業務区分と管理支配基準

イ 法六六条の六第三項の解釈の誤り

ロ 判断の誤り

(2) 法六六条の六第三項の立法趣旨関係

イ 法六六条の六第三項の立法趣旨

ロ 法六六条の六第三項の立法趣旨の無視

ハ 判断の誤り

(イ)及至(ホ)

(3) 相乗効果を認めることの不当

2 証拠に基づかずに事実を認定した違法

3 理由のくい違いの違法

(三) 原判決の違法

1 第一審判決の違法の承継

2 原判決の理由附加部分の違法

(1) 判決理由第三文の違法

イ及至ハ

(2) 判決理由第四文の違法

(3) 判決理由第五文の違法

イ及至ハ

四 結語

(一)、(二)

上告理由書

一 原判決及び第一審判決が破棄されるべき理由の総括

原審判決及び第二審判決には租税特別措置法(昭和六〇年法律第七号による改正前のもの。以下同じ。以下法と略称する)六六条の六第三項の解釈適用を誤った違法の外理由不備の違法、証拠に基づかず事実を認定した違法及び理由のくい違いの違法があり、これらが判決に影響を及びことが明らかであるから、いずれも破棄されるべきである。

二 原判決の概要

原審判決は、第一審判決を全部是認、引用した上で、若干の理由を附加するものである。附加した理由の概要は次のとおりである。

(一) ALH社の業務は、甲第一号証(経費の弁済及びサービス料金の支払に係わる契約書)によれば、上告人に対し各種のサービスを提供することにあることが認められないでもないが、サービス料金の改訂は容易ではないから、結局、右認定事実からすると、ALH社のサービス業は業として存在し得たとしても、ALH社はその事業を自ら管理、支配及び運営していたといえない(判決理由第三文)。

(二) ALH社の株主総会開催場所が上告人の本店所在地であること等のみをもってALH社の自らの管理、支配否定することはできないにしても、前記認定事実によれば、それだけでなく、ALH社の事業の実態をも併せてみれば、ALH社が事業の管理、支配を自ら行っていないことが明らかである(判決理由第四文)。

(三) 上告人の一〇〇パーセント出資子会社たるALH社に対しては、上告人の資本の論理に基づく指揮、監督が及ぶことは十分考えられるが、それが事業の末端にまで至れば、ALH社の独立性が否定されるに至ことは必至である(判決理由第五文)。

三 原判決が違法である理由について

(一) 第一審判決の要点

原判決が是認し、引用する第一審判決の要点を摘記すると、次の通りである。

1 法令の解釈

法六六条の六第三項につき、次の解釈を示している。

(1) 法六六条の六第三項は、同条第一項の適用除外の要件として、特定外国子会社等の業種とは無関係に、その事業に対し管理、支配及び運用がなされていることを要求するものである。

(2) 法六六条の六第三項は、特定外国子会社等がその本店所在地国で事業活動を行うことにつき、十分な経済的合理性が認められる場合であっても、およそ管理、支配基準が充足されない場合は、同条第一項の適用除外を認めないものである。

2 認定判断

次の(1)及び(2)の諸事実を認定した上で、(3)のとおり結論している。

(1) ALH社の業務関連事項

イ 南洋材輸入にかかる実質的事項は、すべて上告人が決定し、ALH社は、外形的に貿易の当事者となっていたに過ぎない。

ロ 上告人はALH社に対し、シッパーとの代金決済が、差金の貯留、決済につき、指示していた。

ハ ALH社の業務の範囲、内容は、上告人がシッパーと取決めたところにより自動的に決定される仕組みになっており、ALH社が独自の判断で決定していなかった。

(2) ALH社の経営関連事項

イ ALH社の株主総会、取締役会は、その本店所在地ではなく上告人の本店所在地で開催されてきた。

ロ ALH社の取締役は、専任の者一名を除き、いずれも上告人の取締役と兼任している。

ハ ALH社の役員人事は、すべて上告人の取締役会で審議決定されている。

ニ ALH社の専任取締役真鍋啓介の給与改訂は、上告人の社内稟議で決定された。

ホ ALH社の事務所借替の許諾、新事務所の内装、同予算、新事務所披露の予算等につき、上告人に稟議がなされた。

(3) 結論

右(2)経営関連事項にかかる認定をもとに、上告人はALH社の各種事務処理方針を採集決定していたと決めつけ、これと右(1)業務関連事項にかかる認定事実を総合すれば、ALH社の事業は上告人が管理、支配していたものであると断じている。

(二) 第一審判決の違法

1 法令の解釈適用の誤りと判断の不当

(1) 業種区分と管理支配基準

法六六条の六第三項にかかる右(一)1(1)の解釈及びそれを前提として判断は、次の通り誤りである。

イ 法六六条の六第三項の解釈の誤り

成る程、同条項は業種の如何を問うことなく、一律に管理、支配基準を充足すべきことを定めている。しかしながら、具体的な管理、支配が業種に応じ異なったた形で現われるべきは当然である。即ち、サービス業者が顧客の需要に応じるため、サービスの内容を顧客の指示に従って決定したからとて、その故に顧客が当該サービス業者の事業を管理、支配しているとすべきいわれはない。法六六条の六第三項がこの当然の事理を無視したものとは到底考えられない。管理、支配の有無を業種の如何とかかわり、なく判断すべきとする第一審の解釈は誤りであり、須らくまず、当該企業の業種が何であるかを認定し認定した業種の実態に即して管理、支配のあるべき姿を審究すべきである。

ロ 判断の誤り

第一審判決は、法六六条の六第三項を右(一)1(1)のとおり誤解した結果、本件の最大の争点であり、当事者が攻防を尽した点即ち、ALH社の事業が貿易業とサービス業の何れかの点につき認定判断することなく、また、業務関連事項が本来契約事項としてサービス契約上の義務の履行に係わる事柄として、上告人の指示に従わざるを得ない点を看過して漫然とALH社が提供するサービスの内容が、上告人の指示により決定される仕組になっていること等をもって、ALH社の業務は上告人が管理支配していたと断じている。

(2) 法六六条の六第三項の立法趣旨関係

法六六条の六第三項にかかる右(一)1(2)の解釈及びそれを前提とした判断は次のとおり誤りである。

イ 法六六条の六第三項の立法趣旨

法六六条の六第三項は、同条第一項による合算課税制の導入によって、我国企業の海外進出、国際的経済協力が阻害される結果とならないよう、いわば角を矯めて牛を殺す結果にならぬよう、法人税軽課国に子会社を設置することにつき経済的合理性が存する場合は、同条第一項の適用を除外することを趣旨とするものである。換言すれば、当該特定外国子会社等が本店所在地に独立企業としての実体をもたず、且つそこで業務を行うにつき経済的合理性を欠く場合、いわばペーパー・カンパニー乃至それに類するものについてのみ合算課税を行い、それを超えて合算課税を拡げるべきではないとするものである(別添資料ご參照)。これから明らかなとおり管理、支配基準等の諸基準は、経済的合理性を判定するための指標として定められたものである。従って、経済的合理性は管理、支配基準等に対し、それらを包攝するより高次元の概念として観念されるべきである。とくに管理、支配基準の適用に当っては、親会社が子会社に対し資本の論理(投資者は、投下資本の安全確実を期するため、資本投下先に対し、諸々の支配力を及ぼすことは不可避との経済原則)に基づき、種々指揮監督に及ぶことが通常であるから、右立法趣旨との適合には格別慎重な解釈、配慮が要求され、子会社の管理、支配が否定されるのは、親会社の指揮監督が資本の論理による相当の範囲を逸脱した場合に限られるというべきである。このことは次の国税庁長官通達にも明瞭に表現されている。

(租税特別措置法関係通達六六の六-一〇)

「措置法第六六条の六第三項の規定の適用上…例えば、当該特定外国子会社等の株主総会の開催が本店所在国等以外の場所で行われること、当該特定外国子会社等が現地における事業計画の策定等に当り、当該内国法人と協議し、その意見を求めていること等の事実があるとしても、そのことだけでは、当該特定外国子会社等が事業の管理、支配及び運営を自ら行っていないことにはならないことに留意する」

(昭和五三年直法二-二四により追加)。

ロ 法六六条の六第三項の立法趣旨の無視

第一審判決は、右(一)1(2)のとおり、経済的合理性を管理、支配基準と同次元に並置して解釈し、業務関連事項と経営関連事項を混同し、且つ資本の論理に対する配慮を欠くものであり、右イに述べた立法趣旨を無視したものである。

ハ 判断の誤り

ALH社は、上告人が南洋材の安定的輸入を達成する上で不可欠の存在であること(従って仮に本訴が上告人の敗訴に確定したとしても、上告人はALH社を解散することは毛頭考えていない)は、上告人が累次に亘る準備書面で強調したところであって、この点は第一審判決も正当に肯認しているにも拘らず、右のとおり法六六条の六第三項の立法趣旨を無視した結果、右(一)2(2)に述べた認定事項が次のとおり、上告人のALH社に対する指揮、監督とはかかわりのない事項であり(次の(イ)乃至(ハ)の諸事項)、或は指揮監督にかかる事項であるとしても、資本の論理に基づく相当の範囲内にとどまるものである(次の(ニ)及び(ホ)の諸事項)にもかかわらず、これらをもってALH社は管理、支配を欠くとしている。

(イ) ALH社の株主総会、取締役会が東京で開催されたのは、専任取締役を除く他の取締役が東京に在住していること、唯一の株主たる上告人の本店所在地が東京であることによるものに過ぎない。

(ロ) ALH社の専任取締役を除く他の取締役が、上告人の取締役と兼任しているのは、ALH社の業務内容が比較的単純で、取締役は一名で足りるところ、法令の規定により複数の取締役を設置する必要があるため、他は上告人の取締役と兼任させているに過ぎない。

(ハ) 上告人がALH社取締役の選任を行ったとする点は、第一審判決の誤解である。上告人がその取締役会で決定したのは、自己の職員をALH社に派遣すること、即ち自己の派遣人事について決定したまでであり、ALH社はその総会で右派遣人事により決定された者を自己の取締役に選任する決議を行っている。

なお、親会社が自己の職員を子会社の役員として派遣することは、資本の論理に基づく世上極く一般的な現象に過ぎない。

(ニ) ALH社が上告人に対し、専任取締役の給与について稟議をしている点については、企業が自己の職員を外部に派遣する場合、被派遣先が派遣先で幾許の給与を得るかにつき最大の関心を抱くことは当然である。

かかる配慮なくして企業の人事管理はあり得ない。即ち、右は上告人のALH社に対する指揮、監督の意思に基づくものというより、自己の人事管理目的から出たものに過ぎない。

(ホ) 事務所の借換え、新事務所の内装及び新事務所の披露パーティーにつき、ALH社は上告人に稟議をしていた点は、本件課税処分の対象事業年度より後の事実であり、これをもってALH社の管理、支配を云々することは違法である。仮に右主張が認められないとしても、シッパーの接遇がその業務遂行上重要々素たるALH社にとって、その事務所を何れの場合に如何なる規模内容で設置するかは、その事業の盛衰にかかわる重要事項であり、新事務所の披露パーディーを如何に運営するかもゆるがせにし得ない重要事項である。上告人は右のような観点から、資本論理の当然の発露としてALH社に稟議を求めたにすぎない。

(3) 相乗効果を認めることの不当

第一審判決は、上告人のALH社に対する右(一)2(1)の業務内容にかかる指示と、右(一)2(2)の経営関連事項にかかる指揮監督を総合、相乗してALH社の管理、支配を最終的に否定するものである。

しかしながら、右1(1)に述べたとおり、ALH社の事業が貿易業であるとの認定を経ない限り、右(一)2(1)の点は同社の管理、支配を否定する要因とはなり得ないものであるところ、第一審判決はALH社の事業が貿易業であるとの認定をしておらず、従って、相乗関係に措定された一因子が有意ではないのであるから、右相乗効果を認める第一審判決には、論理の飛躍があり、理由不備の違法を犯すものである。

2 証拠に基づかずに事実を認定した違法

第一審判決は、右(一)2(2)の経営関連事項(その中のとくにハ、ニ、ホの点)を認定した上で、上告人がALH社の事務処理の方針を「最終的に決定した」していたと断じている。しかしながら本件全証拠に照らしてみても、右の如く断定することは不可能である。右断定には証拠に基づかずに事実を認定した違法がある。

なお、一般に稟議形式が用いられる場合、審査者が最終決定権限を有する場合の外、稟議とは単に形式のみで、その実態は事前報告更には事後報告の場合すらある。ALH社の場合は右の中間的なもの、即ち、事前報告の性質を有するものであり、上告人がこれに対し異議を述べ或は変更を求めた事例は皆無である。

3 理由くい違いの違法

第一審判決は、

(1) ALH社の業務が貿易業とサービス業の何れであるかを限定しないで判断すべきとした上で、

(2) 右(一)2(1)のとおり、ALH社は外形上の貿易当事者となっていたに過ぎないこと、ALH社の業務の範囲、内容は、上告人がシッパーと取り決めたところにより、自動的に決定される仕組みになっており、ALH社独自の判断で決定するものではなかったこと等を理由に、ALH社の管理、支配を否定するものである。

(3) しかしながら、右(2)の認定事実をもって管理、支配を否定する判断は、ALH社の業務が貿易業であることを前提とした場合にはじめて導かれるものであり、ALH社の業務が貿易業とサービス業の何れであるかを不問とする(1)の判示との間に重大な理由くい違いの違法がある。

(三) 原判決の違法

1 第一審判決の違法の承継

原審判決は右(二)に述べたとおり、各種の違法、不当を内包する第一審判決を是認、引用するものであり、第一審判決と同様の違法、不当を犯すものである。

2 原判決の理由附加部分の違法

(1) 判決理由の第三文の違法

原審判決は、附加理由の一つとして、右二(一)に述べた如く判示しているが、この判決には次の違法がある。

イ 「ALH社の業務は…各種のサービスを提供するにあることが認められないでもないが」、「ALH社のサービス業は業として存在し得たとしても」と判示する部分は、本件の最大の争点であるALH社の事業が貿易業とサービス業の何れかの点につき判断を回避したものであり、審理不尽、理由不備の違法がある。この背景には第一審判決と同様、法六六条の六第三項の解釈適用の誤りがある。

ロ 「右認定事実からすると…ALH社はその事業を自ら管理、支配及び運営していたとはいえない」と判示する部分の「右認定事実」は、右(一)2(1)(ALH社の業務関連事項)及び(2)(ALH社の経営関連事項)の諸事項を指すものと解されるが、これらの諸事実をもってALH社の管理、支配を否定する判断については、第一審判決につき右(二)1に指摘したと同様、法六六条の六第三項の解釈適用を誤り及び同項の立法趣旨を無視した違法並びに右(二)3に指摘したと同様理由くい違いの違法がある。

ハ 「サービス料金の改訂が容易でないこと」をもって管理、支配否定の一要因としている点は、その趣旨が不明であって理由不備の違法がある外、資本制経済社会にあっては、役務の対価決定が慎重になされ、とくにその増額改訂が容易でないことは当然のことであり、親子会社間にのみ限られた事態でないから、右判示には経済法則乃至経験法則の適用を誤った違法をも内包する

(2) 判決理由第四文の違法

原審判決は附加理由の一つとして、右二(二)に述べた如く判示しているが、この判示部分とその行論からすれば、上告人が主張する資本の論理に理解を示しつつも、結局、ALH社のサービス業務に対する上告人の支持を理由に管理、支配を否定するものと解される。

従って第一審判決につき、右(二)1(1)に指摘したと同様、法六六条の六第三項の解釈適用を誤った違法及び右(二)3に指摘したと同様理由くい違いの違法がある。

(3) 判決理由第五文の違法

原審判決は附加理由の一つとして、右二(三)に述べた如く判示しているが、この判示部分は、上告人が主張する資本の論理に理解を示しつつも、親会社の指揮監督が事業の末端にまで及ぶ場合は管理、支配が否定されざるを得ないとの前提を置いた上で、ALH社に対する指揮監督は、資本の論理に基づく相当の範囲を逸脱しているから管理、支配は否定されるというものと解される。しかしながら、

イ まず、右判示にいう「指揮監督」が右(一)2(1)のALH社の業務関連事項にかかる指示を指すのか、右(一)2(2)のALH社の経営関連事項にかかる指揮監督を指すのか明らかでなく、この点で理由不備の違法がある。

ロ 次に、右判示にいう「指揮監督」が右(一)2(1)のALH社の業務関連事項にかかる指示を指しているとすると(第四文の判示と総合した場合、このように解する余地は十分あると考えられる)、右(二)1(1)に述べたと同様、法六六条の六第三項の解釈適用を誤った違法がある。

ハ 更に、右判示にいう「指揮監督」が右(一)2(2)のALH社の経営関連事項にかかる指揮監督を指しているとすると、右(二)1(2)に述べたと同様法六六条の六第三項の立法趣旨を無視した違法がある。

四 結語

(一) ALH社は、上告人が第一審及び原審で縷説主張したとおり上告人に対し、南洋材の安定的輸入の確保に不可欠のサービスを提供するため設立された上告人の百パーセント出資による子会社であり、貿易業ではなくサービス業を営むものである。このことは、同社が上告人から契約所定の取扱数量に応じた手数料を受領するだけで、貿易取引に伴う危険は一切負担していないことから明白であり、この点は上告人が第一審に転出した証拠により十分立証されているところである。このため、上告人がALH社に対し、需めるサービスの内容を指示し、同社がこれに伴うのは至極当然である。

また、上告人がALH社の経営関連事項につき指揮監督しているとしても、それは同社事業の基盤ともいうべき事務所新設にかかる事項だけであり、資本の論理による当然のことに過ぎない。第一審が認定するその他の事項はALH社に対する指揮監督とはかかわりない事柄である。却ってALH社は、右の特殊事項(事務所新設関係)を除けば毎年度の経費予算をはじめ、重要事項を上告人に稟議することなく、自ら決定処理しているのである。

(二) しかるに第一審判決及び原審判決は、

1 法六六条の六第三項の解釈適用を誤った結果、本件の最大争点たるALH社の事業が貿易業とサービス業の何れであるかを認定判断することなく、ALH社の事業がサービス業であるとの認定を経ていれば、同社の管理、支配を否定する理由とはなり得ないサービス内容にかかる上告人の指示等をもって、ALH社の管理支配を否定し、

2 法六六条の六第三項の立法趣旨を無視した結果、資本の論理に基づく当然の指揮監督を理由に、ALH社の管理支配を否定し、

たものであり、この外、種々の理由不備、理由くい違いの違法を犯すものである。

第一審判決及び原審判決の論法に従う場合は、およそサービス業或は百パーセント出資子会社で合算課税制の適用除外を受けるものは皆無となり、法六六条の六第三項が完全に没却されることは必至である。

第一審判決及び原審判決には以上のとおり違法があり、それが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原審判決、第一審判決とも破棄し、上告人の本訴請求が認容されるべきである。

以上

(添付書類省略)

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